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映画「燃えよ剣」感想(一部ネタバレあり)ー俳優の演技が光る良作。が、しかし詰め込みすぎ感もー

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 映画「燃えよ剣」を観てきたのでその感想を。

 本作は司馬遼太郎氏の同名作品が原作の作品である。幕末を舞台に、実際に史実にて存在した人斬り集団「新選組」の興亡を鬼の副長・土方歳三の視点で描き出している。

 実は、メインキャストの1人に山田涼介氏起用というのがどうにも受け入れがたくてもともと劇場で観る予定ではなかったのだが、暇な時間が出来たのと、評判が思ったよりいいみたいなので観に行ってきた。

 原作は既読済み。が、如何せん5、6年は前のことなので。「雪さんいいヒロインだなあ」と思ったことしか正直記憶に残っていない。一時期薄桜鬼というゲームにハマっていたこともあって、新選組そのものについての一通りの知識はある。

 

 

 

全体的な感想

 よくもまあ、あの膨大な質量の原作を2時間半でまとめたものである。江戸のバラガキ時代から京都上洛、戊辰戦争までおよそ6年間のなかの重要な出来事をかいつまんで丁寧に描写していた。アクションや舞台のセットにそうとう力が入っていたので、出来事一つ一つに見ごたえがある。

 特にすごかったのは池田屋事件。実際の空間を大工さんが忠実に再現したセットで撮影したそうで、狭い空間内での斬り合いは臨場感が半端ない。突入するときに「刀を振りかぶるな!」って命令があったのリアル(天井が低いから引っかかる)。部屋一面が血しぶきで真っ赤に染まっていたのには鳥肌。池田屋、今現在は新選組を全面におした居酒屋に生まれ変わっているのだが、あんな惨劇の舞台を商売で使っているのある種の業を感じる。 

 あとは新選組好きが分かるような細かなネタが面白い。浅葱色のだんだら羽織は実際そんなに使われていなかったらしいとか、芹沢鴨の大砲持ち出しとか、沖田総司が黒猫を斬ろうとした(黒猫を斬ると労咳が治るというデマがあった)とか。黒猫云々は忠実か有名な創作か覚えてないけど。

 時代考証がしっかりなされているんだなあと感じた。

 とはいえ、全体的に駆け足だったように思える。伊東甲子太郎なんか重要な人物のはずなのに体感15分くらいで殺された気が……。鳥羽・伏見の戦いから函館までの後半は特に無理やり詰め込みました感がある。もはやダイジェストでは?と思うくらいにはそれぞれの戦いがサクッと過ぎていった。せめて錦の御旗くらいは説明してやれよ。前後編作品にすれば戊辰戦争のくだりもしっかり描写出来たのと思わなくもないが、2部構成作品てだれやすいので、難しいところ。

 それから時代背景の説明だとかのナレーションがないので、最低限の日本史の知識がないと置いてけぼりを食らうことは必須である。私が行った劇場は山田涼介氏の影響か、女性客が5割以上だったのだが(お蔭様で入りやすかったし浮かずに済んだ)、終演後、近くの席にいた女の子たちが「なんか難しかったねー」と話していたのが、記憶に残っている。それはそうだろう。何せ説明がとにかく足りていない。

 幕末において長州藩はどういう動きをしただとか、それぞれの思想の違いだとか、戊辰戦争に至るまでの流れだとか省かれすぎでは?清河八郎の早々の離脱や山南敬助が土方に対抗心を燃やす理由、鳥羽・伏見の戦いが何故ああもズタボロになったのか等、観客が前知識を持っている前提で作られている部分が多すぎた。キャスティング的にも原作ファン以外の層が観に来ることは分かっていたはずなので、もっと配慮しても良かったのでは?

 そうなってしまった理由は恐らく、主人公・土方歳三の語りによって、新選組の辿ってきた道が語られているからだろう。作品のメインは土方歳三であって、新選組そのものではないという点では、この手法は間違ってはいないと思うのだが、観客全員がついていけるような工夫も欲しいところ。大河ドラマが如何に分かりやすく作られているかを実感した。

 

アクション

 殺陣は門外漢なので素人丸出しの感想になるが、とにかく迫力があった。斬って斬られての命がけの攻防、刀がぶつかり合った時の鈍く重たい音(キンキンキンみたいなSEのそれではなかった)、派手に飛ぶ血しぶきとズブリという生々しい音。今まさに命のやり取りが行われているんだという臨場感が半端ない。

 

キャスト

 個人的に印象に残っている方のみ

岡田准一土方歳三)】

 安定のキャスティング。アクションがヤバい。土方歳三の戦い方って砂をかけて相手の視界を邪魔したり、首を絞めたりと結構何でもありだったと何かで読んだことがあるんだけど(たぶん新選組顛末記)、岡田准一の殺陣が蹴り喰らわしたり、思い切り相手を吹っ飛ばしたりとはちゃめちゃな感じで如何にもといった風。

 そして、試衛館時代ののザ・田舎ものな歩き方や姿勢の悪さがすごい。作り込まれすぎてる。あの人ほんとにジャニーズ?!

鈴木亮平近藤勇)】

 安定その2。この人にガタイのいい歴史上の人物やらせたらだいたいハマるよね。西郷どんとは真逆の立場の役なのがなんか面白い。ガタイはいいわ存在感はあるわで、画面に映っているだけで安心感がある。がっつり戦闘してたのはたぶん池田屋くらいだと思うんだけど、殺陣をもパワープレイなのが解釈一致。

【山田涼介(沖田総司)】

 不安要素だと思っててごめんなさい。真剣に役作りに励まれていたんだなあと実感。殺陣は素人目に見た限りだと感じなかったし、それ以外のシーンも良かった。沖田総司って個人的に、無邪気な性格で近藤・土方の弟ポジって印象なんだけど、山田君の沖田は本当にそんな感じだった。病でやせこけた姿が儚げで綺麗なの流石ジャニーズ。土方が寝たきりの沖田の目の前で菊一文字を抜いて見せてあげるシーンで泣いた。

【山崎丞(村本大輔)】

 今までにない山崎丞像だった気が……。監察(スパイ役)という性質上、無口な人物というイメージがあったんだけど、あれはあれで新鮮でよかったなあと。近藤とは違う意味での存在感。「まんじゅうまんじゅうまんじゅう小判小判小判小判ー」「切腹切腹切腹切腹ー」のくだりシリアス&血がブシャーなのに笑ってしまった。そして池田屋では大活躍。走り方すらシュール。あとで、知ったんだけどお笑いの方だったのね。

藤堂平助金田哲)】

 え?この人お笑いなの?!その2。池田屋と油小路の変しか主だった出番はないが、印象的。殺陣すごいなあと思ったけど、剣道の段もちとのことで納得。油小路での土方との対峙、よかったですね。え?油小路の変で土方は出動しなかったんじゃないかって?……フィクションなので。

井上源三郎(たかお鷹)】

 剣の腕はそこまでだが、皆から好かれる人物というのがだいたいの人が抱く井上源三郎像だと思うのだけど、まさにその通り。主要メンバーのなかで1人だけだんだら羽織を着用したりと、ずれてるところがいいんだ…。鳥羽・伏見は泣いた。土方が写真を撮られるシーンで、近藤・沖田に混じっていたのも泣いた。何故俳優さんが他の人よりご高齢だったかは不明。忠実では、そんなに年は離れていなかったと思うのだが…。

山南敬助安井順平)】

 出番の多さと眼鏡というビジュアルの割に影が薄い。土方歳三の視点で物語が進む故か、彼の心情がそこまで見えてこなかったというのが手痛い。そして脱走からの切腹もサクッと終わった。

徳川慶喜山田裕貴)】

 あ、この慶喜は家臣を捨てて逃げるわ。納得だわ。という感じ。トップがあれなら幕府が終わるのも道理である。

芹沢鴨伊藤英明)】

 金を脅しとり、女を犯し、鉄扇を振りかざして暴れまわり、とこれぞ暴君・芹沢鴨!テンプレ通りの悪党ぶりが光る光る。ふんどし一枚でめった刺しにされて死んだの、悪役の憐れで無様な最期って感じでいいね。